ひげの感想文

日々感じたことを、想いのままに連ねていきます。音楽とか映画とか、もっとくだらないこととか、色々。

Mr.Children「重力と呼吸」がロックアルバムになった3つの理由

Mr.Childrenが通算19枚目のアルバム「重力と呼吸」を10月3日にリリースした。

ファン歴13年の自分にとっては心待ちにしていた新譜である。そりゃもう最高なことに間違いないんだけれども、何周か聴いたところ、これまでとは違う新しいMr.Childrenが鳴っていると感じた。それはなぜか。このアルバムがロックだからである。「いやいや、これまでだってMr.Childrenがロック的な側面を持って表現することは多々あったじゃないか」、そう言われるとたしかにそうなのだが、そのように感じた理由をいくつかのポイントをあげて説明していきたい。

 

①バンドサウンドの力強さ、瑞々しさ

Mr.Childrenの歌」ではなく、「Mr.Childrenのバンドサウンド」を聴かせたかったと桜井和寿がいくつかのインタビューでも語っている通り、バンドサウンドがこれまでになく力強く、瑞々しい。(ベースの音色やドラムの力強さ・多様さなど、リズム隊においてそれは特に顕著である。ひずんだギターも近年の中では比較的多い。)

冒頭のM-1「Your Song」から既に象徴的で、ドラムス鈴木英哉の「ワン、ツー!」というハイハットを伴うカウントから始まり、オフマイク気味の桜井和寿によるエモーショナルなシャウトが、これまでの彼らの作品とは明らかに一線を画す始まりを告げる。やはりMr.Childrenというと「歌」であり、メンバーもボーカル桜井の歌を生かすための演奏に徹している旨の発言を度々してきた。昨年の25周年ツアーでは「みんなのミスチル」「みんなの歌」に徹した彼らが、このアルバムでもう一度原点に戻ろう、バンドの音を鳴らそうという衝動や熱がこの1曲目からダイレクトに聞こえてきた。他にも80年代ビートロックを思わせる新機軸のM-2「海にて、心は裸になりたがる」や、各楽器がスリリングに絡み合うアンサンブルが特徴的なM-6「addiction」、ひねり無しのストレートなギターロックが新鮮なM-7「day by day(愛犬クルの物語)」など、10曲48分と彼らのアルバムとしてはコンパクトな造りの中に、聴きどころが非常に多い。珠玉の名曲M-9「himawari」も、この位置に置かれていることで作品としての締まりや、M-10「皮膚呼吸」に向けて視界が開けていくような効果をもたらしている。

歌詞についても少し触れると、人生観を揺さぶるような名リリックがMr.Childrenにはいくつも存在するが、そういったドラマチックさは今作にはあまり見られない。サウンドに導き出された歌詞はなるたけシンプルに、これまで以上にメンバー同士であったりリスナーと、「音」でコミュニケーションを取ろうとしているように感じた。

 

②「深海」との関係性

「深海」は彼らが1996年に発表した、後ろ向きな曲調や反社会的な歌詞も多いコンセプトアルバムである。当時桜井和寿は自身の不倫などで精神的に相当参っており、自殺したいと思っていたほど。そのような状況下で産み落とされたこの作品はロック性が高く、これまでの作品群においてもとりわけ暗く異質だ。このアルバムと類似する点がいくつかある。

I.これまでMr.Childrenがリリースしたアルバムの中で、漢字(とひらがな)のタイトルは「深海」と「重力と呼吸」のみ

II.「深海」と「重力と呼吸」リリース時のみ、「最高のアルバムが出来ました」という旨のコメントを桜井和寿が出している(上「深海」リリース時、下「重力と呼吸」リリース時)

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Ⅲ.最新のFC会報内でのインタビューで次のツアーについて、「深海のツアー(REGRESS OR PROGRESS)まではいかないけれど、ライブ全編を通して1つの組曲みたいなイメージもある」と発言している。

以上からこの2作に通ずるものを感じずにはいられない。ただ現在バンドの状態は良好で、「深海」発表当時のような状況ではないことは明らかだ。ではもう少し違った角度でどういった関係が見えるか。ここからは完全な推測になるが、前作「REFLECTION」は23曲というかつてないスケールでバンドの持てる全てを全方位的に出し切った作品であり、それを経て次の作品を作っていくにあたっては、当時のような強い・ある種のハングリー精神が必要だったのではないだろうか。それがこういった共通点として表れたことは決して偶然ではないように感じる。「重力」と「呼吸」はいずれも「海」の中では(感じることが)出来ないことから、「類似」というよりは、当時の自分たちを20年越しで乗り越えた「決別」と言えるかもしれない。

 

③近年のMr.Childrenの活動

Mr.Childrenは誰もが知るモンスターバンドであり、それ故活動の多くは大掛かりにならざるを得ない。ライブとなると基本的にはワンマンで、規模もアリーナクラス以上になる。けれども最近の彼らの活動は身軽に、且つ開けている。

この流れのスタートは2014年の秋に遡る。次のアルバム(2015年リリースのREFLECTION)に収録予定の新曲をファンクラブ限定ライブで先行披露し、2015年初頭に映画として上映を行ったのだ。同年にはくるりエレファントカシマシASIAN KUNG-FU GENERATIONRADWIMPSらとのライブハウスでの対バンツアー、2016年には22年振りのホールツアーを実施、2017年にはONE OK ROCKのツアーにゲストで出演するなど、バンドの新陳代謝を図るかのような、これまでの歩みに捉われない活動ぶりが見られる。桜井和寿という人は非常に優しい笑顔が印象的だが、基本的には負けず嫌いである。(過去のインタビューでは、良い音楽を聴いたあとにはMr.Childrenの作品を聴いて、負けていないことを確認するといった旨の発言などもある)同世代や若手ロックバンドとの共演から受けた刺激が、本アルバムのロックサウンドに表れているであろうことは想像に難くない。

 

「重力」と「呼吸」は、この世に生きるすべての生き物が等しく感じたり、行っていることである。つまりはそういった普遍的な、強度のあるアルバムを作ることで、「Mr.Childrenはまだまだ第一線で闘い続ける」という意思表明をしているようだ。ライブで映えるであろう曲も多いこのアルバムを引っさげてのツアーが既に始まっている。25周年を記念したベストな内容で行った昨年のツアーで1つの区切りを付け、新たなMr.Childrenがこれからどうリスタートしていくのか、楽しみでならない。